津地方裁判所伊勢支部 昭和53年(ワ)71号 判決 1980年2月22日
原告
山添千代
ほか三名
被告
久保田忠佑
ほか一名
主文
一 被告久保田忠佑、同中西元は、各自、原告山添千代に対し金二四二万〇、五四七円及び内金二二二万〇、五四七円に対する昭和五二年一二月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告山添泰幸、同濱荻明美、同野々宮重美に対しそれぞれ金一六一万三、六九八円及び内金一四八万〇、三六四円に対する昭和五二年一二月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、各支払え。
二 原告の、被告久保田忠佑、同中西元に対するその余の請求及び被告サンオート販売株式会社に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一を被告久保田忠佑、同中西元の負担、原告に生じたその余の費用と被告サンオート販売株式会社に生じた費用とを原告の負担、被告久保田忠佑、同中西元に生じた費用をそれぞれ当該被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告山添千代に対し金五七七万四、三二九円、同山添泰幸、同濱荻明美、同野々宮重美に対しそれぞれ金三八四万九、五五三円ずつ及び右各金員に対する昭和五二年一二月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
昭和五二年一二月二一日午前九時三五分頃、伊勢市藤里町六九八番地の五地先県道上において、亡山添貞次が原動機付自転車(以下被害車という)に乗つて進行中、進路右前方に停車していた被告中西運転の普通貨物自動車(以下加害車という)の左側助手席ドアーが突然開いたため、右ドアーに被害車が衝突し、亡貞次は路上に転倒して頭部を打ち、よつて、脳挫傷、頭部打撲・骨折等の傷害を負い、同月二七日市立伊勢総合病院において、右傷害により死亡するに至つた。
2 責任原因
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
(一) 被告久保田は、加害車の助手席に同乗していて、前記のとおり、突然助手席のドアーを開けた過失により本件事故を惹起せしめた。
(二) 被告らは、いずれも加害車両を保有し、自己のため運行の用に供していた。
3 損害
(一) 亡貞次と原告らの身分関係及び相続
原告千代は亡貞次の妻であり、その余の原告らはいずれも亡貞次の子であるが、亡貞次の本件事故による損害賠償請求権をそれぞれ法定相続分に応じて、原告千代において三分の一、その余の原告らにおいて各九分の二ずつの割合で相続した。
(二) 亡貞次の逸失利益 金二、〇三二万二、九八八円
亡貞次は、死亡時五四歳の男子で、平均月収金二六万五、三〇〇円を得ていたが、本件事故によつて死亡したことにより、その後六七歳に達するまで一三年間に亘り右同額の得べかりし利益を喪つた。そこで、その間の同人の生活費を収入の三五パーセントとみて控除したうえ、ホフマン式年別複式計算法により、右逸失純利益の本件事故時における現価総額を計算すると、右の金額となる。
(三) 亡貞次の慰謝料 金一、〇〇〇万〇、〇〇〇円
(四) 葬儀費用 金五〇万〇、〇〇〇円
亡貞次の葬儀費用として右金額を下らない出費を要したところ、原告らは右費用を前記法定相続分に応じてそれぞれ負担した。
(五) 損害の填補 金一、五〇〇万〇、〇〇〇円
原告らは、本件事故につき加害車両の自賠責保険より、右同額の保険金の給付を受けたので、これを前記(二)ないし(三)の損害金合計金三、〇八二万二、九八八円の内金に充当した。その結果、右損害金の残額は、金一、五八二万二、九八八円となつた。
(六) 弁護士費用 金一五〇万〇、〇〇〇円
原告らは、本訴の提起追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬として右同額の金員の支払いを約し、右出費は原告らがそれぞれ前記法定相続分に応じて負担することとした。
4 結論
よつて、原告らは被告らに対し、各自、前記損害填補後の損害残金一、五八二万二、九八八円及び弁護士費用金一五〇万〇、〇〇〇円の合計金一、七三二万二、九八八円を原告らの前記法定相続分に応じて按分した各金員すなわち、原告千代につき金五七七万四、三二九円、その余の原告らにつきそれぞれ金三八四万九、五五三円ずつ及び右各金員に対する本件事故発生の翌日である昭和五二年一二月二二日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
(被告久保田忠佑)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(一)の事実は認めるが、(二)の被告久保田が加害車の運行供用者であつたとの事実は否認する。なお、本件事故の発生については、亡貞次にも、被害車を運転して加害車の左側直近を走り抜けようとし、また事故時ヘルメツトを着用せず、靴下に草履ばきで被害車を運転していた過失があつたから、原告らの損害額の算定については、右亡貞次の過失も斟酌されるべきである。
3 同3のうち、(一)の事実は認める。(二)及び(六)の事実は否認する。(三)(四)の事実は不知。
(被告中西元)
1 請求原因1の事実は認める。
2 被告中西が加害車両を保有し運行の用に供していたとの事実は認める。但し本件事故の発生については、亡貞次にも被害車を運転して時速三〇キロメートルを超える速度で加害車両の左側直近を追い抜こうとし、また事故時ヘルメツトを着用せず、靴下に草履ばきで被害車を運転していた過失があつた。よつて原告らの損害については相応の過失相殺がなされるべきである。
3 請求原因3のうち、原告らと亡貞次との身分関係及び原告らが自賠責保険金一、五〇〇万〇、〇〇〇円を受領した事実は認め、その余の事実は争う。
(被告サンオート販売株式会社)
1 請求原因1及び3の事実は不知。
2 被告サンオート販売株式会社が加害車両を保有し、運行の用に供していたとの事実は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因1の事実は、原告らと被告久保田及び同中西との間においては争いがない。
二 責任原因
1 被告久保田の責任について
請求原因2の(一)の事実は被告久保田との間に争いがない。そうして、成立に争いのない甲第四、第六、第九、第一一、第一九号証及び被告久保田、同中西各本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、アスフアルト舗装された車道幅員約一二メートル(その両側に歩道が設けられている)の県道で、自動車交通量の相当多い道路であるところ、被告久保田は、被告中西運転の加害車の助手席に同乗していて、同車が本件事故現場で、前方交差点の赤信号に従い、同交差点手前の停止線付近に停車した他の普通自動車一台に続いて停車した際、加害車から下車しようとして、後方の安全を十分確認しないまま、助手席のドアーを若干開いたところへ、たまたま同車の左側を後方から追いついてきた亡貞次運転の被害車(原動機付自転車)が衝突し、本件事故を生ぜしめるに至つたこと、加害車が右停車した際の、同車と車道左端との間隔は、約一・一メートルないしはそれより若干広い程度であつたことが認められる。
右の状況からすれば、被告久保田は、加害車の助手席のドアーを開けるにあたつては、被害車のような他車が加害車の左側方に接近して進行してくることのあり得ることを予測して、後方の安全を十分確認してからドアーを開けるべき注意義務があるのに、同被告がこの義務を尽さないで、不用意にドアーを開けて被害車をこれに衝突させた点に過失のあることは明らかであり、よつて、同被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。
なお、原告らは、被告久保田に対し、加害車の運行供用者としての責任をも主張するが、同被告が加害車を保有し自己のため運行の用に供していた事実を認めるべき証拠はない。
2 被告中西の責任について
被告中西が加害車を保有し自己のため運行の用に供していた事実は当事者間に争いがない。よつて、同被告は、自賠法三条に基づき、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。
3 被告サンオート販売株式会社の責任について
成立に争いのない甲第九、第一一号証及び被告久保田、同中西各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
被告中西は本件事故当時、被告久保田と共同して、被告サンオート販売株式会社(以下被告サンオートという)の取扱商品の販売店を経営すべく、「サンオート販売株式会社伊勢営業所」名義で伊勢市内に事務所を設営し、従業員を募集するなどの営業準備活動をしていた。しかしながら、本件事故当時、被告中西経営の右「サンオート販売株式会社伊勢営業所」は、被告サンオートとは、営業面・資金面とも全く別個の企業体として設営を予定していたものであつて、被告中西は、被告サンオートから、形式的に右名称を借用しようとしたに過ぎず、被告久保田と共に、なんら被告サンオートの企業的支配に属するものではなかつた。そうして、加害車は、被告中西の個人所有の車両であつて、同被告が自己の運行目的に使用しており、右運行につき、被告サンオートがなんらかの管理あるいは支配を及ぼし得る関係にあつたことを認めさせる証拠もない。そうすると、被告サンオートが加害車の運行供用者であつたとの原告らの主張はこれを認めることができず、被告サンオートに対する原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であり、棄却を免れない。
三 損害
1 亡貞次の逸失利益 金一、三五六万八、四九二円
原告らと被告久保田及び同中西との間ですべて成立に争いのない甲第一、第一三、第二〇号証及び原告山添泰幸本人尋問の結果によれば、亡貞次は、本件事故当時五四歳の健康な男子であつて、神鋼電気株式会社伊勢工場に勤務して、一定の給与収入を得ていたことが認められる。そうして、同人は、もし本件事故により死亡することがなければ、原告ら主張の六七歳まで稼働して収入を挙げ得たものと推定することができる。しかしながら、他方右証拠によれば、同人は、本件事故の前日である昭和五二年一二月二〇日右神鋼電気株式会社の企業整理に伴う希望退職の募集に応じてその届出をし、同月二八日付をもつて退職したうえ将来適宜の職場に再就職の予定をしていたことが認められる。そうすると、同人が本件事故により死亡することがなかつた場合の前記推定稼働可能期間内の得べかりし収益を算定するに、右神鋼電気株式会社から同人が生前得ていた給付額を基準とするのは妥当でない。そうして、他に特段の立証のない本件においては、賃金センサスに基づく男子労働者の平均給与額を参考としてこれを算定するほかはない。
公知の事実である昭和五二年度の賃金センサスによれば、小学・新中学卒業男子労働者の五四歳の年間平均給与額(年間賞与等特別給与を含む―以下同じ)は金二九〇万四、八〇〇円、同じく五五歳から五九歳までの者の同給与額は金二四一万五、七〇〇円、同じく六〇歳台の者の同給与額は金一、八〇万六、九〇〇円であることが認められるので、右金額によつてこれを五四歳から六七歳まで一三年間分を累計し、さらにこれを一三で割るとその金額は金二一二万五、五〇七円(円以下切捨)となる(計算式次のとおり)。
(2,904,800円+2,415,700円×5+1,806,900円×7)÷13≒2,125,507円
したがつて、亡貞次は、本件事故後六七歳に達するまで、少なくとも年間平均右二一二万五、五〇七円を下らない収益を挙げ得る能力を有していたものと推認されるので、右金額から、その間の同人の生活費を三五パーセントの割合で認めて控除し、その残額につき、右一三年間の中間利息を、ホフマン式年別複式計算法によつて控除して、本件事故時におけるその現価総額を算出すると金一、三五六万八、四九二円となる(計算式次のとおり)。
2,125,507円×0.65×9,821(ホフマン係数)≒13,568,492円
2 亡貞次の慰謝料 金一、〇〇〇万〇、〇〇〇円
亡貞次が、前認定のとおり本件事故によつて前記負傷をし、六日の後に死亡するに至つたことによる精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料は、同人の年齢及び家族構成のほか本件事故年度当時における一般的貨幣価値等諸般の事情を斟酌して考慮し、右の金額をもつて相当と認める。
3 葬儀費用 金五〇万〇、〇〇〇円
経験則上亡貞次の葬儀費用は右金額を下らないものと認めることができ、原告山添泰幸本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右葬儀費用は原告らが各自後記法定相続分の割合に応じて負担したと認めることができる。
4 過失相殺
成立に争いのない甲第六、第九、第一一号証及び被告久保田、同中西各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せると、亡貞次は、本件事故時ヘルメツトを着用せず、草履ばきで被害車である原動機付自転車を運転していたことが推認される。二輪車を運転するに際しては、、ヘルメツトを着用して万一の場合の事故防止に心がけるべき注意義務があるところ、亡貞次がこれを怠つていた過失は、本件事故の結果発生に寄与しているものと認められる。したがつて、この点を斟酌すると、前記1ないし3の損害については、その合計金二、四〇六万八、四九二円の内一〇パーセント相当額について過失相殺すべきものと考える。その結果右差引残金額は金二、一六六万一、六四二円となる。なお、亡貞次が本件事故当時草履ばきで被害車を運転していた点は、本件事故の発生に寄与したか否か必ずしも明らかでなく、また同人が加害車の左側に接近して進行してきた点は、前記本件事故現場の道路状況、加害車の停車位置等に照して一概に不注意な運転方法とも断定できず、さらに被害車の速度については、これを明らかに認定できる証拠もなく、過失相殺に供すべき程の速度違反があつたことを認めるべき証拠もないので、これらの点はいずれも損害額の算定にあたつて考慮しないこととする。
5 相続
原告山添千代は亡貞次の妻であり、その余の原告らはいずれも亡貞次の子であることは、原告らと被告久保田、同中西との間で争いがない。そうして、右事実に弁論の全趣旨を併せると、原告らは、亡貞次の相続人の全てで、本件事故により亡貞次に生じた損害賠償請求権を、それぞれ法定相続分に応じ、原告千代において三分の一、その余の原告らにおいて各九分の二ずつの割合で相続したことを認めることができる。
6 損害の填補 金一、五〇〇万〇、〇〇〇円
原告らが、本件事故につき、加害車の自賠責保険から右同額の保険金を受領し、これを損害に充当した事実は原告らの自認するところである。そうすると、前記5の過失相殺後の残損害金二、一六六万一、六四二円に右保険金を充当すると、右損害金の残額は金六六六万一、六四二円となる。
7 弁護士費用 金六〇万〇、〇〇〇円
弁論の全趣旨によれば、請求原因3の(六)の事実を推認し得るところ、本件訴訟の提起追行の経緯及び前記請求認容額等に照すと、原告らの訴訟代理人に対する報酬のうち、被告久保田、同中西らに負担を求め得る金額は、右金額をもつて相当と考える。
四 以上のところから、原告の被告らに対する本訴請求は、被告久保田、同中西に対し、各自、前記三の6記載の損害の填補後の損害金六六六万一、六四二円に前記弁護士費用金六〇万を加えた金七二六万一、六四二円を原告らの前記相続分に応じて按分した各金員、すなわち、原告千代につき金二四二万〇、五四七円(円未満切り捨て)、その余の原告らにつきそれぞれ金一六一万三、六九八円(円未満切り捨て)ずつ及び右各金員の内前記弁護士費用分を除いた金員、すなわち、原告千代につき金二二二万〇、五四七円(円未満切り捨て)、その余の原告らにつきそれぞれ金一四八万〇、三六四円(円未満切り捨て)に対する本件事故発生の翌日である昭和五二年一二月二二日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める限度で理由があるからこれを正当として認容することとし、右被告らに対するその余の請求及び被告サンオートに対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大西秀雄)